「あ、お久しぶりです!」


ようやくあたしは我にかえって、頭を下げた。


「――そちらが噂の、彼氏?」


ひとみ先輩が意味ありげに笑う。

先生は相変わらず、窓の外を見たまんま。


「そ、そうです。彼氏の、雄太です」


あたしがぎこちなく紹介すると、どうも、と隣の雄太も頭を下げた。


「あ、こちらは――あたしのサークルの先輩、ひとみさん」


「はじめまして。零ちゃんから、何度かお名前は聞いていたわ」


あたしは何より、先生の表情が気になって仕方がなかった。


「ちょっと彰平!自己紹介ぐらいしなさいよ」


ひとみさんの言葉に、ようやく先生はこちらに顔を向けた。

相変わらず、無愛想な顔で。


「あ、零ちゃんにはこの前紹介したか。まあ――改めて、私の彼氏です」


そうひとみ先輩が言った瞬間に、先生とあたしの視線が絡み合った。

でも“なにか”を恐れて、あたしはすぐにうつむいた。


「どうも、鶴城です」


先生がぶっきらぼうに答えて、とりあえずこの場を逃れることができた。