「ねぇ零ちゃん、ぼくが一番見せたかったのはこっち」


雄太の指さした先にある看板には、“日本庭園”と書いてある。

でも高い植え込みがあって、その先はここからは見えない。


「なにかあるの?」


雄太の言葉に期待して歩いていくと、急に木々が拓けて、純和風な日本庭園が広がった。

太い木の根本、そこには満開のあじさいが咲いている。


「――ほら、きれいでしょ」


雄太が自慢げに、無邪気に笑った。

曇りがちな空を喜ぶかのように、咲き誇るあじさいは、見事にグラデーションを考えて植えてある。


澄んだ青から春の日のような空色――それから徐々に赤みを帯びていき、すみれのような薄紫色になり、鮮やかな紅へ。

きっと、肥料や薬品なんかで土壌を変えてあるのだろう。

しかし、人工的に作られた配色とはいえ――それは見事なものだった。


「雑誌に載ってたの。きれいでしょ」


うん、と、うなずこうとして――あたしは何も言えなくなってしまった。

その純和風なはずの庭園が、


中学校の教室からのぞむ中庭に見えてしまった。