「ひとみの、お父さんが入院したんだよ。だから延期」


先生はそっけなく答えたが、あたしはその言葉を聞き逃しはしなかった。


――“ひとみ”。


あたしのこと、零って呼んでくれたのは数えるほどしかなかったから。

すごく、切なくなった。


そりゃそうだよね、結婚するくらいだもん――と、あたしは心の中で納得しようとしたけれど、


胸の奥が苦しいような痛みを憶えるのはなぜだろう。



「やっぱり、大変なんですか?」


「ん――まぁ、ね」


話しづらいことを聞いてしまったな、と反省したのだが、先生はそんなことは気にしていない様子だった。


「医者にはもう半年もないって言われてる。だから、当分は看病を大事にさせようと思ってな」


両親ともにピンピンしているあたしには、あまりに衝撃的だった。


「しかも病状がひどいってわかったのが最近になってからで、ちょっと今はバタバタしてる」


そうなんですか、と、あたしはうつむいた。