心臓が、異様なほどに早く脈打っているのがわかる。



「――飯でも食いに行くか」


不意打ちとも言える先生の一言は

――あたしに、完全に自分を見失わせた。


こくん、と小さくうなずいてしまったあたしは――
なにもかもを、忘れてしまっていた。




もう、自分でも何がなんだかわからなくなって、あたしは今にも泣きそうだった。








病院を出てすぐの小さな喫茶店にふたりで入った。

薄暗い店内は、赤くなったあたしの顔を隠すのにいい場所だった。


「――アキちゃんのお母さんは、どこか悪いのか?」


「い、いえ...ぎっくり腰みたいです」


そう言うと先生が笑ったから、あたしもそれにつられてぎこちない微笑みを浮かべた。

こうして、再び先生と向き合うなんて――誰が想像できただろう。


「あの、結婚式――」


困ったあたしは思わず、その話題を口にしてしまった。


「ああ」


先生があたしの目をちらっと見て、重たげな口を開く。