なんだか、複雑な思いだった。

結婚が決まって、幸せの絶頂にいただろうに。


そのことで胸を痛める自分と――

そのことで、なぜかほっとしている自分がいるのはどうしてだろうか。



なにを考えているのだろう、あたしは――


そんな自分につくづく嫌気がさして、あたしは小さくかぶりを振った。



そこでようやくエレベーターの扉が開いていたことに気づいた。


「あっ、すみませ――」


慌てて降りようとしたもんだから、あたしはパンプスの先を思いっきり溝にひっかけてしまい、前のめりになった。

危ない!と思ったが、もうすでに遅い。


これから起こることがパッと頭に浮かんで、あたしは思わず目を閉じた。




ぎゅっと目をつむったものの、想像していた衝撃や痛みは無かったから――

あたしは恐る恐る目を開けた。


「――危なっかしいな」


その声にはっとなってよく見てみると、あたしの腰にしっかりと腕が回されている。


「う...うわぁ!ごめんなさいっ――」


あたしは真っ赤になって、後ろの男性に頭を下げた。