アキの両親には、高校のころからなにかとお世話になっている。

学校が遅くなればアキのお父さんがあたしまでうちに送ってくれるし、泊まりに行くたびにお母さんは美味しいごはんを作ってくれるから――

入院したなんて、あたしには人事ではなかった。


「すまないねぇ、零ちゃん。この通り、うちのは動けないだけでピンピンしてるから。わざわざ来てもらって申し訳ないくらいだよ」


アキのお父さんは困ったように笑ってみせた。




30分くらい病室にいた後、下まで見送ろうとしたアキを断って――あたしはひとりでエレベーターを待っていた。

下から降りてきたエレベーターには、男の人がひとり乗っていた。

あたしは特にその人を見ることもなく、小さく会釈してエレベーターに乗り込んだ。


すぐに扉が閉まり、ガタン、という軽い振動とともにエレベーターが動き出す。


3、2、1...と動いていくランプを見上げながら、あたしはぼんやりと考えていた。


ここに――ひとみ先輩のお父さんが入院してるんだ。