先生なんて――

今冷静に考えたら、ひどい男じゃないか。


あたしという彼女がいたのに、結局は家庭教師の教え子と浮気してたんだから。


そうよそうよ、と――あたしは心の中でつぶやいた。

あんなひどいやつの、どこがよかったんだか。



そんなふうに、先生をさげすむことしか出来ないあたしは――

自分でも、惨めだった。



バッグの中のケータイを開いて、あたしはボタンを押して、先生の電話番号を画面に表示させた。


あれから6年経った今でも――

いまだに消せない番号とメアド。


こんなにひきずって、未練がましくてバカな女だってことは、あたし自身がよくわかっていた。

でも、どんなに消そうと思ってもこのメモリだけは消すことが出来なかった。


唯一の接点を、自分から断ち切るなんて――あたしにはとうてい無理なことだった。





ふいに先生の声が聞きたくなって通話ボタンにのばしかけた親指を、あたしはせつない思いで見つめていた。

結婚式を延期する、その理由が知りたい。



あたしが原因なんだという優越感に――ほんの少しでいいから、ひたってみたい。