「――ねぇ、あれ、見た?」


部室に顔をだすと、後輩たちの輪からはずれてアキがあたしに小声で聞いてきた。


「あれ、って?」


「ひとみさんからのハガキよ」


「あ、ああ――うん」


どうしてだろう。
あたしは一瞬ドキッとした。


ひとみさんの結婚式は――延期になったらしい。

あのひどい雨の日に届いたハガキには、無機質な印刷の文字で、結婚式を延期するという旨が書かれていた。


しかも、いつまで延期になるのかは書いてはいなかった。


「なんだろね、あんなの」


アキは不審そうに言った。


「結婚式って、よっぽどじゃない限り、延期なんかしなくない?」


あたしは無言でうなずいた。

結婚式を延期するなんて、今まであたしの周りでは聞いたことがない。


ふたりの間に一体――なにが、あったのだろう。


あたしはそれが気になって仕方がなかった。

でもそんな自分をアキに悟られるのは嫌で、あたしはつとめて冷静なふりをした。


「ほんと、延期なんてドラマでしか聞いたことないよ」


あたしはそう言って笑った。