まだ肌寒い春先の空気があたしと雄太を包み込む。


あたしは何も言えなかった。


『どうして、ひとりで泣くの?』


雄太は相変わらず、普段からは想像もつかないような冷めた口調で言った。


――正直驚いていた。

もう雄太たちが帰ってから、ずいぶん時間が経っている。


アキたちに心配をかけたくなくて先に帰ってもらっていたのに。


『ぼくじゃなんにも力になれないの?こんなにそばにいたのに』


そう小さく、怒ったように雄太はつけくわえた。




あたしは――


認めたくなかったんだと思う。



先生にふられた事実を、

そしてなにより――


先生に捨てられた惨めなあたし自身を。



『零ちゃんひとりで寂しく泣かれるのはいや』


と、雄太は強引にあたしの頭を自分の胸の中へと押しつけた。


『――っ』


先生のより少し頼りなげに見えたその胸は、思いのほか、しっかりしていて暖かいものだった。

雄太はあたしをしっかりと抱きとめ、驚いてもがいたあたしを逃してはくれなかった。