――本当は...
留年なんてうそで、
バイトも終わって、卒業もして、
ほんとうは南高に赴任してくることが決まっていて、
あたしをびっくりさせるために内緒にしていて、
なにより、
別れるなんて、ほんとはうそで。
顔を上げると、目の前には先生が立っている。
『びっくりした?』
先生は悪びれる様子もなく、にやりと笑っている。
そんな先生に、あたしは泣きながら抱きついて――
聞こえる足音は、あたしの目の前で止まった気がした。
『雄太くん――』
顔をあげると、先生ではなくて――雄太が立っていた。
『なにしてるの』
雄太はぶぜんとした態度で言い放つと、あたしの隣に腰を下ろした。
『誰かを待ってたみたいな顔してるね』
そう言うと雄太は鼻で笑った。
『ごめんね、先生じゃなくて』
雄太の冷たい言葉に、あたしは涙が止まらなかった。
先生が来ないことなんて、あたしだってほんとうはわかっていた。
あたしが作り出した――
都合のいいまぼろし。