――“捨てないで”。


その一言がどうしても言えなかった。

先生のことを好きすぎて、どうしようもなかった。



でも、すがりついて泣いて――先生を困らせるようなことはしたくなかった。

先生に困った顔をさせて、自分が惨めにはなりたくなかった。



そう思ったけれど――


あの時のあたしは、間違っていたのかもしれない。


もっと自分の気持ちに素直になるべきだったんじゃないか。


あたしは人一倍、自分を表すのが下手だから――

もっともっと、先生に正直な気持ちを伝えるべきだったんじゃないか。




ポケットの中の冷たい感触を探して、あたしは涙を流した。

セーラー服のスカートのポケットには、先生からもらった――紫色のガラス玉が埋められた、メッキのピンキーリング。


紫色のちゃちな光が涙でかすんで――ふたりで過ごした楽しかった思い出だけが頭をよぎっていく。


『――っ...せんせ』


あたしは思わず声に出して先生を求めた。

そのまま膝をかかえて顔をうずめる。



その時、階下からこちらへ向かってくる足音が聞こえた。