「沢村さんは、理科は好き?」


「――はい、好きです」


「そうか。少しでも興味を持ってもらえてよかったよ」


もっともっと、先生の話を聞きたい。

でも、時間とは非情なものです。


「――あら、まだ残ってたの?」

奥のドアが開いて、司書の先生が帰ってきた。


「ごめんなさいね、もうここ、閉めるのよ」


「あ、すいません。すぐ出ます。沢村さんも、出ようか」


「あ、はい!」


すぐに帰り支度をして追いかけた先生の背中は、広くて大きくて――

あたしはなんだか胸の奥が苦しかった。





図書室を出て。

「じゃあもう遅いし、気をつけてな」


あんなに眩しかったオレンジ色の太陽は、いつの間にか立ち並ぶ家の影へと隠れようとしていた。


「あ、はい――いろいろ教えてくださって、ありがとうございました」


あたしが小さく頭を下げると、先生は笑った。


「俺まだ教師じゃないから――ありがとうって言われるもんじゃないよ。こちらこそ、長話に付き合わせて悪かったな」


「いえ!あの、すごく、楽しかったです」


「ならよかった」