だいいち、鶴城先生に質問する前に、担任のとこに行けってことになるのよね〜。

宮崎先生も、大学での専門は化学だったって聞いたことあるし。



あぁ、もう!
本は全然意味わかんないし、もうどうすればいいんだろう。





「――へぇ、面白い本読んでるな」


突然の声にビックリして顔を上げると、


「あ――」


目の前に、鶴城先生がいた。


「どれ」


先生はあたしの手の中から、ひょいと本を持ち上げた。


「土壌中におけるアルミニウムイオンが与える影響、か」


あまりにも突然のことすぎて、あたしはきっと、口を開けたまま先生に見入っていたに違いない。

恋焦がれた、あの、鶴城先生があたしの目の前にいる。


「アルミニウムイオンってことは、あじさいの花か。しかし――中学生には難しいだろ」


願ってもみないチャンスだということに、あたしはここでようやく気がついた。

「――そ、そうなんです!話が、全然、わからなくて」


「イオンなんて、高校で習うようなもんだしなぁ」


西日の差し込む部屋に、鶴城先生の低い声が響いていた。