「おれ、留年するから」


「――」


あたしは息をのんだ。

心臓がビクンと跳ねあがったのがわかる。


「りゅう...ねん?」


聞き慣れない言葉だったが――その意味を理解するのに時間はいらなかった。


「前々から決まってたんだけどね。まあ、大学生にはよくあること」




自分でも気付かないうちに、涙がこぼれおちていた。

「――先生」


「ん?」


あふれる涙を抑えることができない。


「どうして...そんな大事なことを、教えてくれなかったんですか?」


悔しかった。

あたしは先生の――何なんだろうか。


「留年って、そんな――じゃあ、バイトなんかしなきゃいいじゃないですか!」


ずっとずっと、心の奥底にあったあたしの醜い部分が――せきを切ったように、一気にあふれだした。


「あたしだってよくわからないけど――卒業論文とかだってあるんでしょ?忙しくなるってわかってて、どうして家庭教師なんか」


自分でも止まらなかった。

今まで募らせていた、寂しさや切なさや――先生を好きだという気持ちが、

こんなふうにしか表せない。