「ゼロは、何にも属さないし――何にも染まらない」


先生は、もともとは数学科に行きたかったという話を、少し前に聞いたことがある。


遠い目をした先生の顔は、まるで難しい数学の問題を楽しんでいるかのような――楽しそうな、表情だった。


「でもそのわりに、先生ってあたしの名前を呼んでくれませんよね」


あたしがすねたように言うと――。


「零」


今までにないくらい、優しいキスをしてくれた。


「おまえが高校卒業したら――旅行にでもいきたいな」








真冬の空は空気が澄んでいる。


「オリオン座だ」


車で送ってもらいながら、信号待ちで見上げた夜空には、たくさんの星が輝いていた。


「あ――流れ星」


オリオン座のすぐ横を、青白く光った流れ星が過ぎていくのを、あたしは見逃さなかった。

願い事は――もちろん。


でも3回唱えられないうちに、流れ星は消えてしまった。


「何をお願いしたんだ?」


「先生と――ずっと、一緒にいられますように、って」




でもあたしも、気づいていた。

恋人たちの運命には、翳りが見え始めている。