少しドライブをして、ホテルに行くころには――あたしの不安も、ずいぶん消えていた。


制服のままだったけれど、先生の大きなコートで隠して部屋まで歩いた。

先生のコートからは、キスするときと同じ――煙草の、においがする。




部屋に着くと、すぐに抱きしめられた。

会えない分寂しかったから――あたしは先生の広い胸にしがみついた。



やっぱりあたしは、どうしようもないくらいこの人が好きだ。









完全に乾ききっていないあたしの髪をなでながら、先生が低い声でつぶやいた。


「――零、って、いい名前だな」


シーツを一枚まとっただけで――隣で寄り添うあたしは、その変な言葉に顔をあげた。


「そんなこと、今初めて言われましたよ」


「そう?――おれは、好きだけどな」


もっと女の子っぽい名前がよかったと、子どもの頃に思った記憶がある。


「“ゼロ”って、すごい数字なんだよ。ゼロという概念を持った――昔の数学者を、おれは尊敬するよ」



――ゼロには、何をかけてもゼロになる。