先生のバイトが発覚した。

家庭教師だという。


いつものように乗った先生の車で、何気なくダッシュボードをあけると――

“化学”と書かれた教科書らしきものが。


「なんですか?これ」


すると先生は――少しだけ慌てたように、ダッシュボードを閉めた。


「家庭教師してるんだよ、今」


単なるバイトだと言って――今までなんにも話してくれなかった先生に、あたしは少しだけ寂しさを募らせていた。


「おれもする気はなかったんだよ。でもうちの親父の上司の子どもでさ――親父に断れなくて」


めずらしく先生が、早口でまくしたてている。


「ふうん」


「高3だから、大学受験が終わるまでの――だから、3月には終わるから」


あたしはなんだか切なくなってしまった。


「女の子、なんですね」


「――え?」


あたしは見逃さなかった。

教科書の裏に可愛い字で書かれた――女の子の名前を。


「あ、あぁ――そうだな」


今まで感じたことのない――胸の痛みだった。