これからもきっと、いろんな初めてを先生と重ねていくんだろうなぁ。

あたしがまだまだ知らないたくさんの事を。


それは揺るぎないものだと、幼いあたしは信じきっていた。

大切に育んでいけば、絶対壊れたりなんかしない。



でも。
この世に“絶対”なんてないことを知らずにそう思っていたあたしは、



やっぱりまだまだ子どものまんまだったんだ――








外に出ると、今にも冬を運んできそうな秋風が、ふたりの間を通りぬけた。


「寒いな」


鼻にツンとくる寒さと一緒に――この季節を感じさせる、甘い香り。


「いいにおい」


オレンジ色のキンモクセイの花が、薄暗い向こう側に見える。


「キンモクセイ、ですね」


「ああ」


風に揺れて、小さな花がその甘い香りをより一層強くふりまいた。





駐車場までの道をふたり寄り添うように歩いて――

あたしは今までにない幸せを感じていた。



すると。


「違った」


ふと、先生がつぶやいた。


「おまえの髪だ」


また冷たい風がふいて――シャンプーしたてのあたしの髪を揺らした。


キンモクセイと同じ、甘いにおいがした。