ほんとうに、あたしは泣きそうになってしまった。


「――」


そんなあたしを見て、先生は困ったような笑顔を見せた。


「怖がらせたいわけじゃねぇよ、おれだって」


あたたかな胸に抱き寄せられて――ようやくあたしは、大きな息をつくことができた。


「だって、先生を――」


「先生を?」


「先生を、待たせてばっかりで――」


急に、あたしを抱きしめる腕に力がこもった。

苦しくて――息もできないくらいに。


「――ばかだなあ」


先生は笑って、また同じことをつぶやいた。





そのままふたり、ずいぶんと長い間何も喋らなかった。

身を寄せ合って、あたしは腕まくらをしてもらって――


今まで一緒に過ごしてきた中で、一番穏やかで、幸せな時間だった。



どうしてあたしは、あんなに震えていたんだろう。



「先生」


「――ん?」


ふと顔をあげた先生のメガネをあたしは外した。


「エッチ、したいです」


「――」


静かな空間に、あたしの声だけが響いた。