「小夜さん、手をとってください。」
執事に言われ、組長の目をふさいでいた両手を離した。
組長は、暗闇からいきなり光を両目に浴びて、まぶしそうに、何度も瞬きをする。
そんな組長の目の前には、2杯の紅茶の入ったカップ。
警察署にあるものらしく、カップは、両方ともに無地の白色で個性などまるで感じられないものだった。
そのカップからは、白い湯気が薄くたっており、まだ、中身が温かいことを飲まないでも判断できた。
「おっ、2杯もくれるのか?」
ようやく目が明るさになれた組長が、目の前の2杯の紅茶に気づき、うれしそうに笑う。
「ええ、別に2杯でも構いませんが、片方には、先ほど大和が飲んだ唐辛子の辛味成分が、たっぷりと入ってますよ?」
「・・・えっ?」
組長の動きが止まる。
そして、まるでロボットのようにぎこちない動きで首を動かし、視線を執事の顔へと向ける。
その執事の顔には、無表情の微笑みが浮かんでいた。
「さあ、飲んでください。」
微笑みながらの執事の言葉。
組長の返事は、当然、「結構です。」
「これは、これは、大和らしくない。警察署にしては、美味しい紅茶ですよ?」
「でも、激辛エキス入りだろ?」
「だから、片方だけですよ。50%の確率なら勝負するのが男ではないですか?」
「・・・・龍一。」
真剣な表情で執事を見つめる組長。
「なんですか、大和。」
組長と同様に真剣な表情で見つめる執事。
女性の私としては、組長と執事のタイプの違う美男子同士が見つめ合う光景は、なんともヨダレの出そうな光景なのだが、当然、そういう状況ではないのはわかっている。