全ての音を弾き終わった時
止まっていた世界がまた始まる。

"mode on.”

口の中で小さく呟いた声は熱烈に拍手している貴久には聞こえまい。


「すごい、うまい。」

「『うまい』の3文字で片付けられる、演奏でしたか。」


鼻で笑ってしまう。

そんな野暮ったいものか。


「私もまだまだですね。」

「うっわあ、生意気クソガキ。」

「あなたに言われるとは…。」

「落ち込むな!そこで落ち込むなって!」


私はピアノの蓋を閉めた。

ステージから降りる。


それにしてもこの倉庫は一体…?

もう一回あたりを見回すが、疑問は沸いてくるばかりだ。


「ああ、お腹空いた。もう演奏しないんなら行こう。」


黙って私を眺めていた貴久は間抜けな声を出して脇に挟んでいたヘルメットを投げた。


芝居がかかった言い方が気にかかる。