でも決して嫌いではない。
前ほど好きでもないが。

彼の前で私の心は不規則に揺れた。

「なあ。泣いていたんだろう。なぜ泣いた。」


泣いた?私が?

お兄さんの登場でその前の記憶が軽く飛んでいた。


ゆっくり思い返す。


「あ、とんでもないっ。そのーえっとー…。」


ピアノのせいで泣いたなんて。
ガキと思われるのが嫌で適当に濁した。

しかし当の本人は勘違いをした。


「急にこんな事になって済まないと思うが、親父に自分で言ったんだろう?自立したいって。じゃ、仕方ない。これもいろんな意味で自立―」


なるほど。
全て父親の政略か。

そこまで分かったら長い言葉も聞く必要は無い。