その時ー

お兄さんは確か中学生2年で
私はまだガキだった。

クリスマスイヴ。

幸福に満ち溢れた世界から離れ、
私はピアノの練習をしていた。


「お前を外の世界に連れて行ってあげるよ。」


急にドアが開き、入ってきたのが、お兄さん。

開口一番にそんな事言うのだから固まってしまった。


「え?」

「明日、親父が留守だからさ、抜け出しなよ。手伝ってやる。」


そう言って彼は出て行った。


私はその言葉を信じた。
もうこの生活とさらばだと。


しかし、彼が次の日、来る事は無く、父は予定変更で家にいた。


それからお兄さんとは会っていない。