なぜだ。
なぜ、私の名前を知っている。

頭の中でパニックが起きる寸前、

彼は私の心の中を読んだように

偉そうに、そして少し寂しげにこう言った。

タカヒサ
「貴久 だ。」

「―っ。お兄さん…。」

私には2つ年上のお兄さんがいる。

と、言っても一緒に過ごした時間は少ない。

母親が死んでから、お兄さんは寮のある学校に行かされた。

私が5歳の時の話だ。


「お久しぶりです。」

言葉がかすれる。


まさか会えるとは思わなかった。