「奏!!」
「奏ー。」
「奏奏奏」
俺は野村 奏。
高校受験を無事に終えて春休みを迎えていた。
部屋の壁には新しいブレザーの制服がかかっている。
それを見ながらニヤニヤしていた俺を呼ぶ3人の声。
出所はバラバラ。
一人は個人の部屋から
もう一人はリビングから
そしてもう一人は洗面所
俺はため息をついて部屋を出た。
−コンコン−
「真紀ねぇ。」
「あ…奏?入って。」
俺は部屋のドアを開けた。
そこには黒いスーツを着た長女の真紀がいた。
「何それコスプレ?」
「あ?てめぇ殺されてぇの?」
怖っ!!
真紀ねぇは元レディース総長。
しかも県内トップの……。
「今日は大事なプレゼンなんだよ。まじだりぃ。」
でも総長を辞退した後は大手広告代理店に就職した。
真紀ねぇは荒れてたくせに頭が良すぎた。
だからコネがないと入れないような会社にも楽々入社できた。
「で用件はなんだよ。」
「これクリーニングだしとけ。」
うっ…。
渡された紙袋には大量の服。
でも逆らったら命はない。
「わかったよ…。」
次にリビングに行った。
「亜紀ねぇどうしたんだよ。」
ソファーで新聞を読んでる次女の亜紀。
「コーヒー豆買って来て。」
またパシリかよ……。
俺は黙って亜紀ねぇを睨んだ。
無口で無表情な亜紀ねぇは弁護士の卵だ。
今は修業中らしい。
「返事は?」
新聞から顔を覗かせて真顔で俺を見ている。
「…はい。」
やっぱり逆らえない。
あの真顔から伝わる恐ろしさ。
なんとも言えない恐怖……。
俺は次に洗面所に向かった。
「由紀ねぇどうした?」
「あっ奏!コンタクトの保存液が切れたから買って来てくれないかなぁ?」
可愛くおねだりしてくる三女の由紀。
全国トップレベルの国公立大学の医学部に通うエリート。
もうすぐ研修があるらしい。
医学部に入ったのは玉の輿が目的。
ふわふわした見た目とは裏腹に考えてることはグロい…。
「ねねねねお願〜い!!」
由紀ねぇはしつこい。
こっちが返事するまで諦めない。
「わかったよ…。」
「さすが奏!ありがとっ。」
頭を撫でてきた。
俺もう高校生になるんだけど?
俺はケータイと財布を持って靴を履いていた。
「奏、牛乳と醤油買って来て?よろしくね♪」
……母さんまで…。
俺は肩を落として手には真紀ねぇの大量の服。
パシられるのは慣れてる。
年が離れた3人の姉達は俺を召し使いのように扱う。
もともとウチの家庭は母さんが権力を持ってるから女は強い。
父さん似の俺は父さん同様に女4人に尻に敷かれてる。
3人共頭いいのに俺だけがバカだから頭では勝てないし…。
「おい奏!サッカーしようぜ?」
公園の前を通った時声がした。
そこには友達が数人サッカーしていた。
声をかけてきたのは親友の隼人。
隼人の声で他のみんなも俺に気付いて近づいてきた。
「わりぃ。俺今パシられ中。」
俺は紙袋を見せた。
「大変だな。美人3姉妹は元気か?」
「元気すぎてこっちが困るし。」
「俺は真紀お姉様がいいな。」
「亜紀お姉様だろ。クールビューティーだし♪」
「由紀お姉様の笑顔は最高!」
他の奴らが騒いでる。
俺の姉貴はこいつら人気だ。
姉貴目当てでいつも俺の家に遊びに来る…。