百花繚乱、そんな言葉をあいつが知っているとは思えなかったが。

あいつは歳を考えても、あまりに純粋すぎて、白すぎる。

子供がじゃれあう時みたいに笑顔を振りまく。
花が咲き乱れるようだ、と確かに思ったのだ。


純真無垢、百花繚乱。


そんな少し懐かしいような熟語の並びが、ふと頭を掠めるのだった。


東洋人だの西洋人だの何と呼ばれようが、そんな事は俺にとってはこの上なくどうでもいい事だった。
幼少期散々親父の都合で振り回された俺がひねくれるのも無理からぬ事だと言いたい。

兎にも角にも、本来俺がいた筈の東から遠く離れたこの地へ来ようと、
この黒髪や黒い瞳が珍しそうにのぞき込まれる事になろうと、
俺の独り貫いてきたスタイルは変わる事はなかった。
そしてこれからも、変わる事などないと思っていた。



そうして大した目標もメリハリも、自分に与える事の出来ぬまま、何度目かの春が来た。



…―あいつの、春が。







【春を呼ぼう】