美乃や信二に頼まれ、彼女の外出に付き添うことも少しずつ増えていった。
買い物でも映画でも、頼まれればなんでも付き合ったけれど、唯一カフェに行くことだけは嫌だった。


甘い物はあまり好きじゃなく、できれば見るのも避けたい。
だけど、美乃は甘い物が好きで、外出のたびにお気に入りのカフェでおしゃれなケーキを食べていた。


新発売や季節限定のもの、そして一番お気に入りのケーキ。
時には、一個だけではなかった。


最初は嫌々だった俺も、美乃に付き合っているうちに見るのは平気になっていた。
正式には、幸せそうにケーキを食べている彼女を見るのが好きだったのだけれど。


ある時、そのカフェで美乃の名前の由来を訊いた。


「名前の由来?」

「美乃って珍しいだろ? 漢字だけ見たら俺はたぶん読めなかっただろうし、前からちょっと気になってたんだ」

「そうかな?」


俺の言葉に、美乃は小首を傾げていた。


「もしかして、由来は知らないのか?」

「ううん。あのね、美乃はね、桜なの」

「桜……? ヨシノだろ? ああ、吉野の桜?」

「違う、違う! 私のヨシノは“ソメイヨシノ”!」

「はっ? 染井美乃!?」

「そう。ソメイヨシノっていう種類の桜があるの! 私が生まれた時、近所のソメイヨシノが満開だったんだって」


美乃の説明で、想像したことは勘違いだと察した。
バカな俺は、俺の名字と彼女の名前をくっつけたんだと思ったんだ。