「不便だけど、みんなが来てくれるから楽しいよ! ここにいればたくさんの人が遊びにきてくれるし、なんだかお姫様扱いされてるみたいだよね」


確かに、三〇五同室にはたくさんの人が見舞いに来る。
美乃は、『入院期間が長いからだよ』と言っていたけれど、俺は彼女自身が周囲の人間から好かれているからだと思う。


実際、美乃はみんなに優しい。
自分も病気なのに周りを気遣い、よく気がつく。


車椅子を押してあげたり、入院している子どもと遊んだり、時には屋上や病室で麻雀やトランプに付き合ったり……。
彼女は本当に人気者で、院内では引く手数多だった。


中でも、中年男性と子どもからは取り合いになるほどの人気振りで、お互いになかなか譲らないから、美乃はいつも困っていた。
そして、そんな時はいつも決まって彼女が俺に助けを求め、俺はよく反感を買うのだった。


病院に頻繁に顔を出すせいで、美乃との関係をよく訊かれた。
あまりにも仲がいいから恋人同士だと思われることもあったけれど、いつもこう言っていた。


「友達の妹です。今は俺の妹みたいなものですが」


美乃はたまに不服そうにしながらも、俺の隣でただ頷いていた。


信二は俺の友達で、美乃は信二の妹。
何度か付き添いとして外出したこともあるけれど、その時に知り合いと会ってもお互い同じように答えていた。


“友達の妹”と“兄の友達”。
まるで、合言葉みたいだった。