「まずは、熱が下がれば……と言うのが前提だからね? それと、外泊の日は昼からしか許可は出せない。次の日は、夕食までに戻ってくること。もちろん、ご両親の許可もきちんと取ってもらうからね」


俺と信二と広瀬は、菊川先生の言葉に真剣に耳を傾ける。
先生はそこまで話すと、美乃の顔を見ながら笑った。


「これでどうかな? 美乃ちゃん」


彼女は目を小さく見開いたまま、怖ず怖ずと口を開いた。


「本当にいいの……?」

「条件はきちんと守ってね?」

「はいっ……!」


菊川先生は微笑みながら、俺たちの方を見た。
許可をもらえたことは嬉しいけれど、疑問が拭えない。


「でも……どうして? ずっと反対してたのに……」

「毎日毎日、みんなにお願いされたからね……。美乃ちゃんや染井君だけじゃない。お兄さんやご両親、広瀬さんも何度も僕に頭を下げに来た。それから……」


先生が息を小さく吐いて、内田さんを見ながら微笑んだ。


「内田さんもね」


「へっ⁉」


驚いた俺たちは、見事にマヌケな声を揃えてしまった。


「参ったよ……。内田さんにまで何度も頭を下げられてね。……僕も医者としてはもちろん、美乃ちゃんの知人として、自分にできることをしようと思ったんだ」

「ありがとうございますっ!」

「先生、内田さん……。ありがとうっ……!」


俺と美乃は口々にお礼を言い、信二と広瀬は頭を深々と下げた。


「美乃ちゃん。熱が下がるように、しっかりご飯を食べて元気になってね」

「ご両親には僕から話をするから、明日ふたりが来られたら声を掛けてね」


菊川先生はそう言い残し、優しい笑顔を見せた内田さんと一緒に病室から出て行った。
残された俺たちは、思わず顔を見合わせながら笑い、美乃も久しぶりに本当に嬉しそうに破顔していた。