多分、きっと。
あのとき、俺は前田に惚れたんだと思う。
走る時の一点を見る綺麗な横顔と、シャンプーの匂い。
風に揺れる、ポニーテール。
片思いは好きじゃないけど、前田には片思いをしてもいいと思った。
『……あれ。』
教室から丸見えだというのに、豪快に寝そべる前田を見ながら、ふと感じる。
…そういや最近、前田の走ってる姿は見かけねぇな。
こうやって空き地でサボったり、教室で寝る姿はちょくちょく見かけるが、走る姿は一度もない。
一体、どうしたんだろうか。
もしかして、走るのをやめてしまったのか??
前田の走る姿、俺は好きだったのに。
「ここはXを代入して…。」
数学教師の機械音みたいな声が、俺の耳を抜けていく。
思えば、前田は今年に入って随分変わった。
髪を金色にしたり、授業さぼったり。
前は、そんなことするような奴じゃなかったのに。
何が前田を変えてしまったのだろうか。