俺はいつものように。…いや、いつもより若干足早に空き地を通り過ぎようとする。
この時は、暑いから涼しい場所に行きたいとか、早くテレビがみたいとか、くだらないことばかり考えていて。
空き地の背景なんて気にせず、通り過ぎようとした。
そのときだった。
――俺は、一瞬で目を奪われていた。
隣で吹き上がる、周りとは違う風。
風のように爽やかに通り過ぎた、ほのかなシャンプーの香り。
俺の目の前を通り過ぎたのは、風のように走る前田笑の姿…――。
『……。』
なんだか、時が止まったような、そんな感覚に包まれる。
彼女はなんて、楽しそうに走るんだろう。
彼女はなんで、こんな軽々しく走るんだろう。
引きつけられた目は、一瞬で突き放せなくなって。
俺は見たいテレビ番組のことなんか忘れて、前田に見入っていた。
―――――――――…
――――――――…
―――――――…