――誰かが、走っている。
小さい影が2つと、飛び抜けてデカい影が1つ。
なかでもデカい影は残り2つの影を大きく突き放し、爽やかに風を切っていた。
『…前田……??』
見間違えかと思った。
デカい影がどんどん近づいてきて。
目を凝らさなくても見える距離に映ったのは、前田の姿だったから。
途端に胸はドクンドクンと波立ち、前田を視界いっぱいに映していく。
『……。』
…あいつ、走るのやめてなかったんだ。
前田はあの時と変わらず、爽やかな笑顔で走っていて。
長い髪が、風に引かれてウェーブを作っている。
限りなく、綺麗。
「やったぁ、一位だぁ~」
響く、前田の声。
力いっぱいガッツポーズをして見せる前田に、なんだか笑みが溢れてくる。
一位って…。ガキ相手に勝って、本気で喜ぶなよ。
つうか、大人げねーなぁ。
思わず声を出して笑ったら、その笑い声に気づいたのか。
フッ、と。
重なるように、前田と俺の視線がぶつかった。