剣の稽古は、屯所の直ぐ隣に有るお寺の境内で行われていた。
『俺達は、稽古から仏様に見守られてるって訳。…趣深いだろ?』
永倉さんが自慢げに胸を張る。
『何て言うか…戦いで負けたら、直ぐ迎えに来てくれそうだよね…仏様。』
藤堂さんが皮肉を込めて永倉さんを横目で見る。
『負けやしねェよ。なんてったって新撰組には、この永倉新八が…』
『ホラ、早く稽古始めようぜ?日が暮れちまう。』
原田さんが溜息混じりに二人を促す。
不意に、冬の寒い風が頬を撫でた。
『…寒っ…!』
『コート持って来れば良かったなぁ…。』
私と雛は着物の袖に指先まで入れ、身体を震わせながら稽古の準備にかかる三人へと視線を向けた。
流石、と言うべきか…三人は冬の冷たい風も気にならない様子で、木刀や長い棒を手にして軽く身体を動かしている。
『いやー…女性が見てると思うと気合いが入るな!』
木刀を片手に笑顔を見せる永倉さん。
『稽古と言えど、負けたら好感度ガタ落ちだぜ?…新八、覚悟しておけよ。』
長い棒を持ち永倉さんに宣戦布告する原田さん。
『初対面でカッコ悪い所なんて見せられないよねー…。二人共、悪いけど今日は手加減しないから。』
木刀を上手く使い、ストレッチする藤堂さん。
三者三様の準備を施すと、先ずは藤堂さんと原田さんが向き合った。
『…そういう生意気な口は、勝ってから叩くんだな。』
不敵な笑みを浮かべ、原田さんが藤堂さんを見据える。
『そっちこそ、好感度下げない様に気を付けた方が良いと思うよ?』
口調こそ先程と変わらぬものの、相手を見つめる眼差しは真剣そのもの。
…稽古といえど、勝負は勝負。
本番と変わらない鬼気迫る空気を纏い、二人は向き合ったまま一礼した。