『………あれっ?』
小さくそう呟くと、雛は数回ノブを捻った。
しかし、何度試しても扉が開く様子は無い。
『…貸せ!』
痺れを切らした男が雛を押し退け扉の前に立つ。
力任せにドアノブを捻るも、一向に開く様子は無い。
『…ッ畜生!』
扉を一度拳で叩くと、隣に立つ雛へと視線を向けた。
『鍵…ホントは掛かってんだろ?』
『掛かってないわよ。鍵穴なんて何処にも無いじゃない。』
男の質問に、怯むことなく淡々と答える雛。
『じゃあ…何で開かないんだ!?』
『知らないわよ、こっちが聞きたいくらいだわ。アンタこそ、いちゃもん付ける為に何か細工したんじゃないの?』
口喧嘩なら負けない、と昔雛が言っていたのを思い出した。…確かに、気の強さでは雛の圧勝だ。
…すると、不意に遠くでパトカーの音が響いた。スタッフの内の誰かが、通報したのかもしれない。
その音に、男は目の色を変えた。
『…このやろっ、騙したな!』
充血した眼で雛を見下ろす。
『…畜生、畜生!!』
男は叫びながら、雛の腕を掴む。
『…ッ離して!』
身の危険を感じたのか、雛は扉の方へと体を寄せた。
『黙れ!騙したのがいけないんだ……畜生、畜生ッ!!』
−−−それは、一瞬の出来事だった。
雛目掛けて、鋭いナイフが振り下ろされる。
マズイ。
そう思った私は、男の背中目掛けて体当たりをした。
『グオッ…く、お前!』
男は雛の手首を掴んだまま、前のめりに倒れた。
そして…
本来なら押したり引いたりする事で開く筈の扉が、何故か横にスライドした。