『フテイ…ロウシ?』

雛が首を傾げる。

『尊王攘夷派…つまり、天皇を頭として外国人を徹底的に排除したがってる奴等の事だ。…そいつらが、日本を外国の手から守るって大義名分で京の町で好き勝手やってるって訳。まあ…本当の所は、幕府を潰したいからなんだろうけど。』

その言葉に、雛は思い切り顔をしかめる。

『幕府を倒したいから、穏やかな京の町を荒らすなんて…子供みたい。』

『そ。そういうガキを退治するのが、俺達新撰組…って訳。』

沖田さんが自慢げに腕を組んで見せる。

『まあ…まだまだ新撰組も何処の馬の骨とも分からぬ浪士の集まりだと非難されているがな。』


反り返る沖田さんを横目に、土方さんがしっかり釘を刺す。

『真面目だなー…土方さんは。』

沖田さんが調子良く笑う。土方さんと一緒に居る時の沖田さんはいつもの作り笑いではなく、本当に心から楽しそうに笑っている気がした。


『お待たせしました!』


そうこうしている内に、藍さんがお盆にお茶を乗せて席までやって来た。

『お団子は後でお持ちしますね!沢山乗せたら持ち切れなくなっちゃって…。』

恥ずかしそうに笑う藍さん。私たちの前に、丁寧にお茶を並べていく。

『いいよ、ゆっくりしていくつもりだしさ。』

『すいません…あ、でも本当に…ゆっくりしていって下さい!』


小走りで店の奥へと駆けていく藍さん。

『可愛いですね…。』

私は思わずそう呟いた。

『何か見てると危なっかしくてさ…。』

沖田さんが藍さんの背中を目で追いながら運ばれて来たお茶に手を伸ばす。

『初めて彼女を見つけた時もさ、浪士三人に囲まれて震えてて。…雨の日に捨てられた子犬みたいだったなー…。』


懐かしそうに目を細める沖田さん。


『…だから、早くお兄さんが見つかればいいなって。』


お茶を一口啜ると、沖田さんは土方さんへと視線を移した。


『でね、土方さん。』

『断る。』

『おっと…酷いなぁ。』

土方さんは表情一つ変えず、沖田さんの言葉を遮る。

『どうせ兄貴捜しを手伝いたいとか…そういう事言い出すつもりだろ。』