『…さ、行こうか。』

鞄を片手に、店長がそう告げる。
私達がこっちの世界に帰って来てから1時間弱。それぞれのやる事が片付き、ロッカーから荷物を取り出す。

『あっちの世界に、ですか?』

斜め掛けの鞄を肩に掛けながら、雛が問い掛ける。

『そうだね…俺とあおいは明日出勤だから、今日は扉があっちの世界と繋がっているか、確認するだけにしておくよ。』


店長の言葉にあおいが不服そうに声を上げるも、店長の一睨みに渋々頷いた。


『仕方ない、か。斎藤さんに、宜しく伝えておいてね?』

あの掴み所の無い斎藤さんに興味を持った様子のあおい。


『ハイハイ、分かりました。…まだ向こうの世界と、繋がっていたら、ね。』

私はそう言うと、事務所の電気を消した。


…あれは、幻なんかじゃない。


確かに、私達の目の前に居た彼等。
強盗に突き付けられた、冷たい刃先。
そして…沖田さんと交わした小さな約束。

…もう一度、彼等に会いたい。


会って、もっと話してみたい。


最後の戦いの内容について、正直私はあんまり思い出せなかった。

確か北の方へ向かい、五稜郭付近で戦ったのが最後だと思う。そもそも、何故北へ向かったのか。その戦いに誰が参加し、どうなったのか。勿論、死者も出ただろう。
けれど、この時はまだ歴史を詳しく知ろうとは思わなかった。


この時の、

浅はかな、浅はかな私は



命の重さなんて大して考えもせず



まるで映画を見ているような、そんな気分になっていた。





…ねぇ沖田さん。


この時私が歴史の資料を読みあさって、新撰組が辿る末路を詳しく知っていたら…。

私は、あなたに会いに行ったかな。





もし詳しく知っていたら、私は傷付く事を恐れて、この場から逃げていたかもしれない。

…少なくとも、あなた達の事に深く関わるのを避けたと思う。


でも、私達の世界と新撰組の皆が住む世界が扉一つで繋がったことが『運命』であるとするなら、私達と新撰組が深く関わっていくのも『運命』だったのかもしれない。



きっと−…そう。
運命、だったのだ。