「ユイさん、ドンペリピンク入りました」


不意に、黒服が傍に来て小さく言った。


動けなくなっていたあたしは、その言葉にホッとしたけど…


その反面、心のどこかで残念な気持ちにもなっていた。


だけど、ドンペリのピンクが入れば必然的にそっちが優先になって、しばらくはそのお客から離れられない。


「廉、どうする?あたし、しばらく戻って来れないよ?」


必死に平常心を取り戻して、廉の耳元でこっそり訊いた。


「今日は閉店までいるから、行って来い」


「でも、それまでには戻れないかも……。あっ、ヘルプ呼ぶね?」


「いらねぇよ。俺は、絶対すぐにお前を取り返す」


その言葉の意味は、よくわからなかったけど…


「じゃあ、行くよ?」


意味深に笑う廉を気にしながらも、あたしは黒服に言われたテーブルに急いだ。