帰りの車の中で、あたし達は他愛のない話をしていた。


さっきの事には、何となく触れちゃいけないような気がして…


その話だけはしなかった。


「どうせなら、夏に連れて来てくれたら良かったのに……。秋じゃ泳げないじゃん」


あたしは、潮風でべたついた髪を触りながら呟いた。


「別に、海に来た事くらいあるだろ?」


小さく笑った廉に、ため息を落とす。


「ないよ……」


「はっ!?」


「ないもん……」


そう言いながら、だんだん遠くなっていく海を眺めた。


「マジで……?」


「うん、マジで」


あたしは、運転している廉の横顔を見つめた。


「オトコと来た事は?」


「ないもん」


「家族は?」


「ないよ」


廉からの質問に、首を横に振り続けた。