「あたしを撮ってよ……」


廉の瞳に吸い寄せられるように、彼を見つめたまま静かに言った。


不意にあたしの口から零れたこの言葉は、きっと心の声そのものだった。


写真が特別好きな訳でも、カメラやモデルに興味がある訳でも無い。


あんな事を言ったのは、そんな単純な理由なんかじゃない。


廉がレンズ越しに見ている世界の先に、あたしは行きたい。


彼がカメラを通してその先に向けたあの綺麗で真っ直ぐな視線を、あたしにも向けて欲しい。


自分でもよくわからないけど、衝動的にそんな風に思ったんだ。


廉に撮って欲しい……


そんなどうしようもない気持ちを抱えて、黙ったまま廉の答えを待ち続ける。


だけど…


廉も同じようにずっと黙ったままで、あたし達の間には波の音だけが何度も響き渡り、長い長い沈黙が流れた。