彼は、あたしの目の前まで来てから口を開いた。


「名前は?」


「佐久間です……」


缶コーヒーを握り締めながら答えて、ゆっくりと後ずさった。


「そうじゃなくて、下の名前」


「澪、ですけど……」


小さく答えたあたしの背中が、自動販売機にぶつかった。


「可愛い名前だな」


「あの……今日のモデルさんですか?」


あたしが尋ねると、彼はニッコリと笑った。


それから、親指と人差し指であたしの顎を掴んだ。


「お前、可愛いな……」


彼はそう言って、あたしの顔をまじまじと見つめて来た。


「あのっ……!皆、待ってますよ!」


あたしの言葉を無視して、彼がゆっくりと顔を近付けて来た。