緊迫した空気を一番最初に破ったのは、廉だった。


「改めまして……織田廉です。澪さんとは、結婚を前提にお付き合いさせて頂いてます」


彼は少しも動じる素振りも無く、笑顔を見せた。


「澪っ!!これは、どういう事なんだっ!?」


父の怒鳴り声で、あたしの体がガチガチに固まった。


恐い……


過去の出来事が鮮明に蘇って来て、頭の中にはそれしか無かった。


「父さん、そんなに怒鳴らなくてもイイだろ?澪がビビッてんじゃん!」


「お前は黙ってろっ!!」


嵐の宥めるような言葉にも、父は聞く耳を持たない。


あたしはそんな父の剣幕に怯えて、益々萎縮してしまった。


必死に唇を噛み締めていると、廉があたしの背中をポンポンと叩いた。