名刺の裏には所属タレントの名前が書かれている。

一流芸能人と呼ばれる人ばかりだった。

ゴールデンタイムのドラマの主役級の役者がづらりと並び、

歌姫と呼ばれる一世を風靡している歌手の名前もある。

「すごいね。この事務所」

わたしは素直に感想を述べた。

俊が悩むのもわかる気がした。

これだけ大きな事務所から声がかかることなど、もうないかもしれないからだ。

「俊はどうしたいの?」

「俺は歌がやりたいけど……」

俊はそこで言葉を切った。

彼の歌声をわたしはとっても好きだけれど、万人に受ける歌声ではないかもしれないと思う。

声量、音程、そんな基礎的な部分が他のバンドのボーカルより劣ってるのかもしれない。

でも、俊にはそれ以上に魅力がある。練習していけばきっとその魅力ある声で立派な歌手になれると信じている。

わたしは思っていることを正直に話して、最後に

「どういう形であっても、多くの人に俊の歌声を聴いて欲しい」

といった。

俊にとって今のバンドは最高のものではなく。

どうしてもと頼まれて入ったバンドだということをわたしは知っていたし、彼もそのことを悩んでいるのだろう。

「綾花、ありがとう。俺、挑戦してみる」

「うん」

一緒に電車で帰ろうという俊に用事があるからと告げ、

インターネットカフェに向かった。



本当は俊に頼りたかった。


家に帰れないって。


母親の暴力に、暴言にもう耐えられないって。