「ああぁ。喉渇いてたんだよ。ありがとうな」

「で、話って?」

「綾花は俺の歌どう思う?」

「いきなり、どうしちゃったのよ?」

「真面目に訊いてるんだって」

「なんかあったの?」

「あのさ、このあいだの全国バンドコンテストさ、三次審査で落ちただろ」

「うん」

「実はそのプロデューサーだった人から電話があってさ」

「よかったね」

「それがさ、いいのか悪いのかわかんねんだよ。一人でデビューしないかって」

「ソロってこと?」

俊は頭を振る。

「俳優デビューしないかって」

「歌は?」

「最初はファッション誌のモデルからはじめて俳優に挑戦して、売れたら歌手デビューできるって」

「どうするの?」

「困ってるから、綾花に相談してるんだろう」

「バンドのみんなや、彩子さんはなんていってるの?」

俊はあからさまにムッとした顔で、

「なんで彩子の名前が出て来るんだよ。あんな奴関係ないだろう? ただのクラスメートだよ」

「そう」

「なんだよ? 妬いてるのか?」

「妬いてるわけないでしょ? なんでわたしが?」

「そうだよな、俺が誰と付き合おうと、綾花は興味ないよな?」

やっぱり彩子と付き合ってるんだ……

落ち込んだ表情を悟られないよう、わざと明るくいった。

「で、バンドのみんなは?」

「ああ、えっと。みんなにはまだ。っていうか、この話したの綾花が最初なんだけど」

「そうなんだ」

「これ」

俊はそういうと、ポケットから一枚の名刺を取り出した。

「そのオーディションのとき、俺にだけ会場で名刺くれたんだよね」

その名刺に書かれた事務所は有名だった。

芸能界にほとんど興味がないわたしも知っているほどの老舗芸能プロダクションだった。