「綾花ちゃん。タレントに興味ないかな?」

田所が猫なで声でいう。

「わたし、おかしくもないのに笑ったりできませんから」

わたしの返答に、田所が何かいい返そうとしたとき、

「綾花、一緒に所属しようよ!」

由梨奈が口を挟んだ。

「衣食住、全部事務所が面倒みるし。何より、みんなの憧れの職業につけるんだよ?」

グラビアアイドルが憧れの職業か? 少し笑えたが黙っておいた。

「お給料はどうなるんですか?」

わたしの質問に田所は明らかに面倒臭そうな顔をしたが、

一瞬でその顔を消し去り満面の笑みでいった。

「そういうことも含めて、ちゃんと説明したいから。明日、事務所これないかなあ。社長にも会ってほしいからさ」

「絶対行きます。綾花もちゃんと連れて行きますから」

由梨奈が身をのりださんばかりいっている。

「そっか、ありがとう。二人とも待ってるからね」

田所はそういうと、財布から万札を取り出しテーブルの上に置いた。

「残りは二人で使って」

「ありがとうございます」

由梨奈がお礼をいっている。

わたしもとりあえず頭を下げておいた。



由梨奈に半ば押しきられる形で、明日事務所に行く約束を無理やりさせられた。

「嫌なら、社長に会った後断ればいいじゃん」

由梨奈のその言葉に、まあそうだよなと思った。

彼女はお釣りを全部くれた。その手前、行かないと言い張り続けるのも気が引けた。

「じゃあね、明日」

「じゃあ」

由梨奈と店の前でわかれた。



時刻は九時を過ぎていた。

携帯電話が鳴った。



俊からだった。


「もしもし……」

「ああ、俺。今、どこ? ちょっと相談があるんだよね」

「いいよ、話して」

「つれないなぁ。会おうよ。今日さ、本当はバンドの練習見にくるかなって思ってたんだけどさ」

「うん。ちょっと忙しくって」

「そっか。で、今から会える?」