「公演までまだ時間あるそうだから、好きなように何かしてていいぞ」



そんな一言を残して増川はどこかへ消えた。

後輩たちといるのも嫌だし、もう一本煙草でも吸おうと外へ出た。

公民館の中は暑く、パーカーを脱いで外へ出ると、寒いという感覚はなく寧ろ涼しかった。

駐車場の縁石に座り空を見ながら煙草をふかす。

周りにいた大人たちは怪訝そうな顔で沙羅を見て離れていく。

それもそうだろう。

沙羅の両腕には刺青がある。

左腕に赤の昇り竜、右腕に青の下り竜。

背中には地獄太夫と言う江戸時代に遊郭に実在した遊女が彫られている。

腕の竜は勿論、背中の遊女も首や腰から少し見えるのだ。

それを見たら大概の人間は沙羅から離れる。

だから、どんな目で見られようと沙羅は良かった。

慣れていた。

煙草を吸い終え公民館の中へ戻る。

さっきよりも人が増えている。

化粧を直しに化粧室へ行こうと角を曲がった時だった。

思い切り誰かにぶつかって、勢いよくこけた。

その拍子にポケットから煙草が飛び出し床に散乱した。

いつも通りに怒鳴ろうとした時、目の前に手が差し伸べられた。