「もちろん俺らはお断りしたよ?波音ちゃんがいるから。
でも……涙は今記憶が無いから、波音ちゃんの事も覚えていない。
もしかしたら……レイコさんの方にって事があるかも」




雅臣さんは、私に申し訳ないと思ったのか、だんだんと声が小さくなっていった。




もしかしたら、涙はレイコさんの事を好きになってしまうかもしれない、と言う事。




「だから、今のうちに波音ちゃんって言う婚約者がいるんだぞってアイツに教えといた方が良いかも……」



雅臣さんの言葉を聞きながら、机を見つめる。




……婚約者って、まだ言えるのかな?



涙は、婚約どころか、私の存在自体覚えていないと言うのに。











――――――




『あーあ。行きたくねぇなぁ。飲み会』



きちっとスーツに身を包み、髪もいつもと違う雰囲気にセットされた姿の涙が、ソファーに寝そべって不満を漏らす。




『涙、寝たらスーツシワシワになっちゃう』


『ここでスーツの心配?』



洗濯物を畳んでいると、明らかに不満そうな顔をした涙が私を見る。




『他に何の心配が?』


『俺が飲み会に行っちゃって、一人で寂しいって』


『仕方ないでしょ?
会社の上司が集まる飲み会だから休めないって言ったのは涙じゃない』




何日か前から、ずーっと言っていた。




会社の偉い方達も参加する飲み会があると。



行きなくないけど行かないわけにはいかないって。