「まあ…たまにはいいんじゃないの? ママが死んでから、パパ、毎日のように定時に帰ってきて…夜勤も外してもらって、なんか悪い気がして」

彩樹が、トントンとあたしの背中を叩いた

彩樹の手は温かくて、優しさが溢れてくる

大好きよ、彩樹

パパが交際を反対してるけど、あたしは彩樹が好き

風のように走るその姿が大好き

がちゃ…とドアが勝手に開くとそこにはパパが立っていた

抱き合っているあたしたちを目にしたパパの顔色がみるみる変わっていく

「な…何をしてるんだ!」

「あ…」

あたしが口をぽかんと開けると、彩樹がぱっとあたしから離れた

「お…岡崎とは許さん」

「オカザキ?」

あたしは首を横にたおした

「彩樹の父親の名前だ」

むすっとした顔をしたパパが、靴を脱ぐとずかずかと家の中に入っていく

「パパ、どうしたの?」

「陽菜の仏壇にまだ手を合わせてない!」

不機嫌な声で、家の奥に向かった

「…じゃ、俺、先に行ってるから」

彩樹が苦笑いを浮かげながら、玄関を出て行った

「もうっ」

パパのせいで、彩樹と途中まで一緒に登校できなくなったじゃないの

「今夜の飲み会は断るからな。すぐに帰ってくる」

パパが玄関に戻ってくると、あたしの顔を見た

「なんで? 飲み会に行けばいいじゃん」

パパが切ない顔をすると、あたしの頭を撫でた

「いいんだよ。知り合いの人が、無理やりセッティングした見合いだから」

パパがすごく悲しそうな顔をする

「パパ、再婚するの?」

「しないよ」