僕は棺から雅巳と共に棺を離れた。

その時に、塩谷さんの両親が雅巳を見ている事に気が付いた。

その視線は何か複雑な感情を抱いているように思わせた。

 塩谷さんの話し振りでは、雅巳や雅巳の母親の事を、塩谷さんの家族は何も知らないような印象を受けた。

それでも、やはり血が繋がった親子だから、雅巳を見て何か感じるものがあるのかもしれない。

 雅巳の母親は最期まで式に参列して、塩谷さんの親族とは離れた所で彼を見送った。

 拾骨のため、職員の誘導で収骨室へ向かった僕達はすっかり小さな骨となってしまった塩谷さんと対面した。

偶然、雅巳の母親と一緒に骨を拾う事になった僕は、雅巳の母親の口から小さな声が漏れるのを聞いた。

「お疲れさま、あなた」

 その一言で、塩谷さんが愛した女性は塩谷さんを愛していた。僕は、そう確信したのだった。

 帰りのバスの中で隣同士になった雅巳は、ちょっぴり怒っていた。

雅巳の眉間に皺が寄っているのを僕は初めて目にした。

 一体、雅巳は何をそんなに怒っているのだろう、と気になったが、良枝や雅巳の母親が僕達の前の席に座っているのが気になって、何を怒っているのか聞く事ができなかった。