そういって微笑んだその人は雅巳に劣らず美しい大人の女性だった。

 彼女は葬儀中、一度も泣かなかったし、不思議なほど穏やかな表情で、塩谷さんの魂を見送っていた。僕も厳粛な気持ちで塩谷さんを見送ったが、不思議と悲しい気持ちにはならなかった。

 それは塩谷さんのあの穏やかな死に顔を見たからかもしれない。

 祭壇の塩谷さんは本当に穏やかで幸せそうな表情をしていた。

 彼はあの三カ月で一生分の幸せと二十年分の後悔を清算する事が出来たのかもしれない。

 それを思うと、悲しみよりも安堵感が心の底から湧き上がってくる。

 人の死は悲しいものという認識があったが、それは人の生き方と死に方によるものだという事を初めて知ったような気がする。

少なくとも、塩谷さんは自分の死を悟った時点で精一杯に生きた。僕はそう思う。

「さよなら、塩谷さん」

 口の中で塩谷さんに別れの言葉を告げながら、僕は塩谷さんの棺に用意された白いユリの花を一輪入れた。最後のお別れの時だった。

 僕は、僕と同じように棺に花を入れた雅巳の母親の横顔を見た。

 彼女は今、心の中で何を思っているのだろう?