まだ何か言いた気な雅巳の唇を僕はかすめ取った。

付き合い始めて二度目のキスだ。

雅巳は僕の首に腕を回し、ぎゅっと僕を抱き締めた。

雅巳の反応は僕が想像していたものとは全く違っていたけれど、僕自身は大いに満足していた。雅巳のために何かしたかった。それが出来た事が何よりもの満足だった。

「須藤、愛しているよ」

 心の底から。

 その思いを口にした時、雅巳の澄んだ瞳が僕の瞳を見つめている事に気が付いた。

 まるで、僕でさえ見えない心の中を覗くように、雅巳は僕の顔をじっと見つめていた。
「私も」

 思えば、それは雅巳が僕に初めて言葉にして伝えてきた気持ちだった。

「ちゃんと言葉にして……須藤」

「愛しているわ、加藤」
 

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雅巳の誕生日から三カ月経ったある夏の日に、塩谷さんは静かに息を引き取った。

塩谷さんの葬儀は彼の両親の手でしめやかにとりおこなわれ、僕は雅巳親子と良枝の四人一緒にその葬儀に参列した。

雅巳の母親に紹介されたのはそれが初めてだったが、病院でその姿を見かけた僕は初めてという気がしなかった。

雅巳の母親は当然の事だが、僕の事を覚えてはいなかった。

「雅巳の事、よろしくね」